奇跡のライバル
2010年3月13日、十勝管内士幌町の六車實子さんの牧場で、一頭の牡馬が生まれた。
父はウンカイ。3歳三冠馬に輝いた競走馬時代の実績もさることながら、初年度産駒から3歳牝馬三冠馬(現在とはレース体系が大きく異なる)ニシキエースを輩出するなど、種雄馬としての評価がうなぎ登りに上がっていた。
生まれた仔馬は、父とは違う栗毛で、鼻梁に伸びる流星が特徴的だった。
九日後の3月22日、同じ牧場で、同じくウンカイを父に持つ、こちらは父によく似た青毛馬が生まれた。
同じ土地で伸び伸びと育ち、時には取っ組み合いもしながら月日を共に重ねた二頭は、やがて帯広競馬場へ入って行った。
そして二頭は、ばんえい競馬の競走馬となった。
栗毛馬にはコウシュハウンカイ、青毛馬にはオレノココロという名が授けられていた。
この二頭が揃ってトップホースとなり、数年にもわたり激闘を繰り広げていくことになろうとは、誰も想像できなかったに違いない。
想像できなかったのには、べつの理由もある。
存廃問題を何とか乗り越え、ばんえい競馬は帯広単独開催として新たなスタートを切っていたが、馬券の売上金額は依然として芳しくなかった。
ばんえい十勝の初年度となった2007年度の売上は約129億円。これでも少ないが、次年度はもっと減った。その次年度も、さらに次年度も、売上の減少が止まらない。
三年後、五年後に、変わらずばんえい競馬を行えているのか。生産馬の活躍を期待するよりも、その不安が先に立つ。そんな頃だった。
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六車實子さんは2018年にご逝去されたとのことで、今はご子息の六車勝衛さんが応援に駆け付け、時には口取りにも加わっているが、もう馬産は行っていないという。
私は、その勝衛さんと、帯広競馬場で少しだけだが話をしたことがある。
去年の7月19日、この日のメインレースは、もちろんオレノココロもコウシュハウンカイも出走する旭川記念だった。
まだ1レースが始まる前の時間だったが、スタンド1階のベンチに腰掛け、腕組みをしてモニターをぼんやりと眺めておられた。
いま思えば、少し不躾だったかもしれないが、近づき、軽く一礼して、お声掛けさせていただいた。
「今日は、どちらが勝ちますかね」
もちろん向こうは私のことなど知らないが、怪訝そうにこちらを見上げたのちに得心されたようで、
「ん~、こないだはどっちもダメだったかんねぇ」
田舎のオヤジさん、といった感じの、訛りのある丸っこい口調で答えが返ってきた。
この間、というのは6月に行われた北斗賞のことだが、勝ったのは6歳馬ミノルシャープ。オレノココロは3着、コウシュハウンカイは4着だった。
「でもやっぱり二頭のほうが強いでしょう。今日はいいトコじゃないですか」
「いやぁ、もうトシだかんねぇ。どうだかね」
「まだまだ、期待しております」
「はい、どうもどうも」
こんな会話をした記憶がある。
その日も、先に障害を抜けたミノルシャープがそのまま押し切り重賞連勝。懸命に追ったオレノココロが2着、コウシュハウンカイが3着と続いたが、最後まで差を詰めることはできなかった。
「トシだから」
勝衛さんが言っていたとおりの結果になった。
いまは廃止された制度だが、かつては10歳(明け11歳)が競走馬の定年と決まっていた。二頭はまさにその10歳。それを考えれば、いくら競走寿命の長いばん馬とはいえ、たしかに年を取ったものだ。
札幌へ帰る道すがら、ハンドルを握りながら考える。
ミノルシャープは強かった。本当に強くなった。まだ伸びしろもありそうだ。
ココロとウンカイは10歳、これはいよいよ世代交代か…?
……いや、甘く見るなよ、この二頭を。
オレノココロとコウシュハウンカイは、他の馬と違う。この二頭だけは、特別だ。
私も含め、そう思っているばんえいファンは少なくないはずだ。
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二頭のデビューからここまでの足跡を振り返ることはしない。
何しろ、重賞だけでも、オレノココロは65戦、コウシュハウンカイは70戦もしている。
重賞での直接対決に絞ったところで、61回もある。
その全てに触れていたら、今年のばんえい記念が終わってしまう。
ここは皆様それぞれで、思い入れのあるレース、気になるレースを見返していただきたい。
(語りたい気持ちを抑えるために余計なことを言わせていただくと、17年3月のばんえい記念と、20年1月の帯広記念だけは絶対に見てほしい)
二頭がデビューした2012年度には約105億円にしか過ぎなかった売上金額が、今年度は450億円を超えた。
認知度が高まり、新しいファンが急速に増える中で、二頭が果たした役割は非常に大きかった。
少し胴の詰まった筋肉質、派手な大流星を持つ栗毛のコウシュハウンカイ。
ゆったりとした作りで、威圧感のある漆黒の馬体を誇る青毛のオレノココロ。
覚えやすく、対照的な見た目と同様に、レースぶりも二頭は違った。
あえて大雑把に言うが、
登坂力を活かすコウシュハウンカイと、末脚に自信があるオレノココロ。
コウシュハウンカイは歩き比べではオレノココロに敵わない。先に下りてリードを作りたいが、行き過ぎると末が甘くなる。
オレノココロは登坂力ではコウシュハウンカイに敵わない。差し届く位置で下りたいが、道中で追い掛け過ぎると障害で止まる。
ゴール前で詰まったコウシュハウンカイを力強く差し切るオレノココロ。
障害で動けないオレノココロを尻目に悠々と抜けるコウシュハウンカイ。
こういった場面を何度も見せられ、新しいファンも、ばんえいの見方がわかってきた。
馬の個性と脚質、それに伴った騎手の駆け引き、馬場や荷物による違い、重賞の価値、夏負け、重賞を勝つと厳しくなるハンデ、障害のミス一つで着順が大きく変わるばんえいの怖さ。これらを二頭はわかりやすく教えてくれた。
ただ、二頭とも心身が強靭過ぎて、重病みだけは教えてくれなかった。そこが凄いところなのであるが。
入り口で恐る恐る覗いていたファンを、グイッと中へ引き込んだこと、これこそが二頭の、一番の功績ではないだろうか。感謝しなければならない。
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明日に迫った、第53回ばんえい記念。
二頭は、やはり世代交代など許さなかった。
主役のまま揃って迎えるラストラン。
オレノココロは、五度目のばんえい記念。過去は1、1、2、1着と、驚異的な成績を残している。率直に言って全盛期を過ぎた印象はあるが、あくまで一番強かったと思える2016~18年頃に比べてのこと。
1月に帯広記念を制したように、現役最強馬の座は動いていない。三年前の自身には勝てなくても、他馬には負けない。今年も最有力候補だろう。勝てばスーパーペガサスに並ぶ四勝目となる。
コウシュハウンカイは、六度目のばんえい記念。3、5、3、4、4着と、頂点には手が届いていないが、三年前は驚愕の第二障害一腰、昨年も一旦は独走態勢を築くなど、持ち前の登坂力をこの舞台でも存分に誇示している。
衰えるどころか、近年はスピードを封印して障害勝負型にシフトチェンジ。いまは高重量戦のほうが合うようになってきたし、全く乱れを見せず、臨戦過程もこれまでで一番。悲願達成へ人事は尽くした。
当代を代表する名伯楽の槻舘重人と松井浩文なら、仕上げに狂いはあり得ない。
手綱をとる鈴木恵介と藤本匠は、大臣賞の勝ち方も悔しさも知り尽くしている。
二頭の、最高の姿を引き出してくれることだろう。
いよいよ最後のばんえい記念。最後の対決。
オレノココロは通算173戦目、コウシュハウンカイは通算191戦目となる。
六車勝衛さんは、どのような想いでレースを見つめるのだろうか。
私は、長きにわたり重いソリとばんえい競馬を引っ張ってきた幼馴染み二頭に敬意を表し、帯広競馬場で心からの拍手を送りたい。
(2021/3/20)
2019年度総括(2)【2歳・3歳・4歳】
【主役争いはまだ続く ~4歳(明け5歳)~】
前年度に大賞典・ダービーの二冠を制したアアモンドグンシン(セン4/5、小林長)がなかなか結果を出せない中で迎えた4歳一冠目の柏林賞(BG3、7月7日)を制したのはミスタカシマ(牝4/5、槻舘)。2歳時にナナカマド賞、3歳時には菊花賞で牡馬を撃破、4歳になってもやはり世代トップであることを示す快勝だった。
3歳馬との世代混合重賞、はまなす賞(BG3、9月1日)は、ミスタカシマと立て直してきたアアモンドグンシンが人気を集めたが、勝ったのは競走除外で柏林賞に出られなかったキタノユウジロウ(牡4/5、村上)で、常に世代上位にいた無冠の実力馬がここで重賞初制覇。ミスタカシマは夏負けか大幅馬体減での5着、再調整を余儀なくされる結果に。
柏林賞馬不在で行われた4歳二冠目の銀河賞(BG2、9月29日)もキタノユウジロウがアアモンドグンシンを抑えてタイトルを加えた。もともと年を重ねてさらに…の評価はあった馬だが、本格化を示す重賞連勝となった。
牝馬限定のクインカップ(BG3、11月17日)は、復調したミスタカシマと、5連勝で臨んだアフロディーテ(牝4/5、西弘)が人気を分け合ったが、ミスタカシマが貫録勝ち、黒ユリ賞、オークスに続き、世代牝馬限定重賞を完全制覇。
年明けの大一番、天馬賞(BG1、1月3日)は、古馬相手のドリームエイジカップ(BG3、12月1日)を制したアアモンドグンシンと、キタノユウジロウ、ミスタカシマの三強ムードもあったが、互いに強く意識し合った厳しい流れの中で障害苦戦、じっくり構えて障害力を活かしたコウシュハレガシー(牡4/5、平田)に凱歌。重賞で幾度も善戦実績はあったが、最後の世代限定重賞で最高の結果を出した。
その後、ヒロインズカップ(BG1、2月9日)ではアフロディーテが狙い澄ましたG1奪取、チャンピオンカップ(BG2、3月1日)ではアアモンドグンシンが再度古馬を抑えるなど、年長馬相手でも存在感を示した。
三冠路線では勝てなかったものの古馬重賞を2勝し、果敢に挑戦したばんえい記念でも見せ場を作ったアアモンドグンシン、ようやく真価を発揮し始め、さらに成長も期待できるキタノユウジロウ、古馬相手では無理をしてこなかった晩成型コウシュハレガシーも来季はガチンコ勝負。
ミスタカシマ、アフロディーテは牝馬戦線を引っ張るトップ2。男勝りの期待も懸かるが、重賞格上げとなったカーネーションカップ(BG3、新年度5月10日)での激突にまず注目。
試練ともいえる5歳シーズンだが、5歳世代が元気な年は、ばんえいがさらに面白くなる。ここで存在感を示し、世代の真の主役となるのはどの馬か。
【ばんえい十勝史上初の3歳三冠 ~3歳(明け4歳)~】
2歳時に重賞タイトルを手にしたメムロボブサップ(牡3/4、坂本)とアオノブラック(牡3/4、金田)。
前者は世代限定戦を待って始動、後者は古馬相手に経験を積む選択と臨戦過程は分かれたが、一冠目のばんえい大賞典(BG3、8月4日)はメムロボブサップが早めに抜け出して完勝。アオノブラックは障害で手間取っての3着、2着に入ったのはギンノダイマオー(牡3/4、松井)で、2歳時の三冠戦すべてに続いて四度目の重賞2着となったが、その後はやや不振に。
一冠目と二冠目の間隔が長いのが3歳三冠の特徴。メムロボブサップが三冠を狙い増量と消耗を嫌って使うレースを厳選する中で、アオノブラックは4歳馬も交えたはまなす賞(BG3、9月1日)で2着と好走して力を示し、ばんえい菊花賞(BG2、11月10日)で再度激突。馬場水分0.9%という数字以上の速い馬場だったが、ここもメムロボブサップが押し切って二冠達成。別定戦の二冠目を乗り切ったことで、三冠への期待が大きく膨らんだ。
そして迎えた年末のばんえいダービー(BG1、12月29日)。定量戦なら人気はもちろんメムロボブサップが一本被り、菊花賞と同じような早めの競馬から、一旦はアオノブラックに詰め寄られる場面もあったが、地力でもう一度突き放した。18年ぶり史上5頭目の3歳三冠、帯広単独開催以降の、現在のレース体系では初となる三冠馬が誕生した。
馬が凄いのはもちろんだが、陣営も讃えられるべき三冠だろう。慎重にレースを選んで増量を最小限に抑えるとともに、730キロを課せられた菊花賞前には古馬相手のオープンで720を経験させ、ダービー(730)前の叩き台も740、ほぼ同じ荷物で騎手に感触を確かめさせたうえで本番に臨む、という状況を上手く作り出した。それを受けて見事に結果を出した阿部武臣騎手も素晴らしいが、相当の重圧があったことだろう。レース直後の安堵感と充実感に満ち溢れた姿、インタビューでの感極まった様子が印象的だった。
楽に勝たせなかったアオノブラックの頑張りもレースの価値を高め、最後の最後で脚が上がったが、やはり力があるところと成長は示した。それが結果として出たのがポプラ賞(BG3、3月15日)で、明け5歳馬もいる中で自らレースを作って圧勝。
最終週のクリスタル特別でも同重量でメムロボブサップを下すなど、年度末に見せたパフォーマンスは、来季へ向けての期待を大きくするものだった。
牝馬に関してはやや低調な印象が拭えず、ばんえいオークス(BG1、12月8日)では2歳時に黒ユリ賞勝ちのあるジェイカトレア(牝3/4、平田)が貫録を示したが、牡馬・古馬相手ではまだ苦しい現状。クイーンヴォラ(牝3/4、坂本)、サクラユウシュン(牝3/4、金山)あたりが実績では次ぐ存在だが、一つ上の世代の牝馬が強力なだけに、今後に向けてはさらなる成長が必要となるか。
精神力が強く力を出し切るメムロボブサップと、体形的にまだ奥がありそうなアオノブラック。この2頭が抜けている印象だが、実が入り上記2頭を破った星もあるジェイエース(牡3/4、山本)、シーズン11勝を挙げたインビクタ(牡3/4、松井)、さらにサクラドリーマー(牡3/4、今井)やアポロン(牡3/4、服部)がどこまで迫れるか、ギンノダイマオーの再浮上はあるのか。
4歳でも三冠路線があるのがばんえい競馬。2020年度はさらに激しい戦いが繰り広げられそうだ。
【次代を担うハイレベル世代 ~2歳(明け3歳)~】
能力検査で一番時計を記録したキョウエイリュウ(牡2/3、村上)が期待通りの走りで常に世代をリードし続け、無敗で臨んだ初の重賞ナナカマド賞(BG3、10月20日)もアッサリ。
お馴染みの“ばんえい甲子園”予選の産駒特別も突破し、二冠への道筋をつかんだ。
そこに現れた強敵はブラックサファイア(牡2/3、松井)。デビューからの2戦こそ振るわなかったものの、休養を挟んだ後は産駒特別を含んで7連勝。
ヤングチャンピオンシップ(BG2、12月30日)での両馬の初対決は大いに注目を集めた。先に仕掛けたブラックサファイアが一旦は突き放したが、ゴール前でわずかに甘くなったところを緩まず歩き切ったキョウエイリュウが差し切り、10連勝で二冠。重量差20キロ以上の難関を突破し、無敗三冠への夢が膨らんだ。
この世代は牝馬も非常に活気があり、特にエンゼルフクヒメ(牝2/3、小林長)は秋の上級4連勝に加えて産駒特別も制すなど活躍。末脚では世代随一の存在で、牝馬限定の黒ユリ賞(BG2、2月16日)では、中山直樹騎手とともに重賞制覇。そこで2着だったアヴエクトワ(牝2/3、久田)はスピードと先行力が魅力、体もあって切れ味鋭いアバシリルビー(牝2/3、金田)は好素材、崩れないフォルテシモ(牝2/3、坂本)は荷物が増えて良さが出てくるか。条件が合えば牡馬相手でも十分に戦えると思えるほどポテンシャルを秘めた馬が揃っている。
イレネー記念(BG1、3月7日)は、2014年度センゴクエース以来の2歳シーズン三冠を狙ったキョウエイリュウがヤングCSからの直行を選択、単勝1.1倍と支持を集めたが、第2障害を越えられず競走中止となるまさかの結果に。
制したのはコマサンダイヤ(牡2/3、金田)。それまでは軽さ負けして勝ち切れないシーンも見られたが、大一番で完璧なレースを見せた。これから荷物が増えてくるのは歓迎と思え、さらに活躍が期待できそうだ。
キョウエイリュウも次走のシーズン最終戦、若草特別では圧巻の走りを披露。今後は荷物への対応がカギとなりそうではあるが、やはり強い。追うグループも強力で、年度末やや調子を落としたものの素質は見劣らないブラックサファイア、ずっと上で安定しているトワトラナノココロ(牡2/3、坂本)、若さが目立つも相当の能力あるゴールドハンター(牡2/3、金田)、安定した末脚が魅力のカイセドクター(牡2/3、坂本)、体ができれば化けてきそうな障害巧者キタノボブサップ(牡2/3、服部)など、上位レベルは相当高いのでは。
同世代同士はもちろんのこと、年長馬相手にどのような競馬を見せるか注目したい。
2019年度総括(1)【古馬重賞戦線】
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、シーズンラストの四週は無観客開催を余儀なくされた2019年度開催だが、その中でも、8年ぶりの新人騎手誕生、メムロボブサップによる3歳三冠、ホクショウマサルの連勝記録更新、そしてばんえい記念の名勝負。売上金額も帯広単独開催となった以降では最多となる310億円超を記録するなど、全体に活気があった一年を振り返る。
前年度のばんえい記念を制したセンゴクエース(牡7/8、槻舘)が世代交代を決定づけるシーズンになるかとも思えたが、新コンビの菊池一樹騎手と臨んだ今季初戦のスプリングカップで障害を越えられずまさかの競走中止、最初の重賞には出走すら叶わないという幕開け。
その中で、ばんえい十勝オッズパーク杯(BG2、5月5日)を制したのはオレノココロ(牡9/10、槻舘)。特別を一戦挟んだ後の旭川記念(BG3、6月23日)まで連勝とし、これで旭川記念は3連覇、王者健在を高らかに示した。
そのオレノココロが障害で綻びを見せた北斗賞(BG3、7月21日)は、立て直したセンゴクエースが勝利。王者2頭を擁する槻舘厩舎の強さを見せたが、このステイブルメイトがその後、共に大きく苦しむことになるとは…。
もう一頭の実績馬コウシュハウンカイ(牡9/10、松井)は年度初めから安定はしていたものの重賞では勝ち切れず、年齢的なものかズブさを見せるシーンもあったが夏場に上昇。夏の大一番、ばんえいグランプリ(BG1、8月11日)では、センゴクエースとオレノココロが大きく乱れて後方に沈むなか、先行策から押し切ってグランプリ初制覇。岩見沢記念(BG2、9月22日)も完勝で重賞連勝、現在のオープン級随一の登坂力を改めて示した。
槻舘二騎は夏から秋にかけて大不振。オレノココロは猛暑の影響も受けたのか、グランプリのパドックでは素人目で見てもわかるほど覇気がなく、時間をかけての立て直しへ。センゴクエースは障害に向かう気持ちが全く見られず、特別戦でも惨敗という屈辱を何度も味わった。
北見記念(BG2、11月3日)は、オレノココロが回避、センゴクエースは相変わらず不振、コウシュハウンカイもハンデ頭の影響か本来の走りができず、制したのはシンザンボーイ(牡8/9、坂本)。かつての世代重賞では勝ち負けできていなかったが、地道に力をつけ、8歳秋にして嬉しい初重賞となった。
世代選抜のドリームエイジカップ(BG3、12月1日)はアアモンドグンシン(牡4/5、小林長)が重量差も活かして積極策から快勝。2着センゴクエース、3着オレノココロと、ようやく実績馬に復調の兆しが見え始めた。
今季は5歳世代も健闘、特にミノルシャープ(牡5/6、大友)とメジロゴーリキ(牡5/6、松井)は共に重賞で2着2回。やや軽い印象のあった前者だが以前より馬場も荷物も重くても我慢できるようになってきたし、シーズン終盤は多少尻すぼみとなった後者も、本来は力勝負でこそ良さが出る馬だろう。来季はトップ級とどのような争いを見せてくれるのか。
年が変わっての正月決戦、帯広記念(BG1、1月2日)を制したのはコウシュハウンカイ。近走成績とハンデ頭を嫌われたか、やや人気を落としていたが、厳しい条件下で第二障害を一腰で越えると最後まで歩き切って復活。懸命の走りを労うゴール直後の藤本匠騎手の姿と、勝利インタビューでの松井浩文調教師の涙が印象的だった。
今季の重賞は非常に面白いレースが多かったが、その重賞戦線とは別に大きな注目を集めていたのは、やはりホクショウマサル(牡8/9、坂本)。昨季23連勝し、今季は6月から始動。変わらず勝ち続けて、年明け1月6日に地方競馬最多記録となる30連勝を達成。間隔を開けながらでもキッチリ作った厩舎、ミスをせず御した阿部武臣騎手。関係者に拍手と感謝。
チャンピオンカップ(BG2、3月1日)は、ドリームACに続いてアアモンドグンシンが年長馬を退けた。条件に恵まれたとはいえ、4歳(明け5歳)シーズンで古馬相手に重賞2勝は力の証明に他ならないだろう。
ばんえい記念(BG1、3月21日)では新たな名勝負が生まれた。1着オレノココロ、2着センゴクエース、順番は入れ替わったが今年も槻舘厩舎のワンツー。夏場の絶不調の時期を思えば、本当によく立ち直ったものだ。ホクショウマサルもコウシュハウンカイも力は出した。残念ながら無観客開催ではあったが、ばんえい競馬の魅力を伝えるには十二分の、ばんえい記念の名に相応しい素晴らしいレースであった。
来季の話をすれば、実力馬も健在だが、スピード面では多少落ちてきているかもしれない。きちんとダメージを抜くことが前提とはなるものの、シーズン前半の荷物ならまずはホクショウマサルが中心となってくるか。障害の不安が少しでも解消されればセンゴクエースはやはり強い。そこに挑む6歳世代のミノルシャープやメジロゴーリキ(さらにゴールデンフウジン、ウンカイタイショウ、マツカゼウンカイなど)、そしてアアモンドグンシンを初めとした5歳世代も本格的に古馬重賞参戦となれば興味は膨らむばかりだ。
今季を上回るような熱い戦いが繰り広げられることを期待したい。